高齢者の食事介助をするときの注意点は?正しい手順を初めての人向けに解説


高齢者はさまざまな理由から、一人で食事をするのが難しくなり、食事介助が必要になることもあります。食事介助には正しい手順や注意点があり、それらを理解しないままおこなうと高齢者にリスクが生じるかもしれません。

 

この記事では、食事介助が必要な理由や正しい食事介助の手順と方法、介助者が気をつけるべき注意点について解説してきます。高齢者の食事介助をおこなう必要がある人は、ぜひ参考にしてください。


 

高齢者に食事介助が必要になるのはなぜ?

高齢者が食事介助を必要とする理由には、以下の6つが挙げられます。


 

<高齢者に食事介助が必要になる理由>

l  咀嚼力の低下

l  嚥下障害

l  味覚障害

l  消化機能の低下

l  食欲の低下

l  認知症の進行

 


ひとつずつ解説していきましょう。


 

咀嚼力の低下

加齢が進むと顎や口の筋力が弱まるだけでなく、虫歯や歯周病の影響で歯を失いやすくなることから、咀嚼力が低下します。


咀嚼力が低下すると、食べ物をかみ切ったりすり潰したりといった行動が難しくなるので、口の開き具合に合わせてスプーンに乗せる食事量を調整するなどの食事介助が必要です。


 

嚥下障害

高齢になると、唾液の分泌量や飲み込む力が低下するため、食事をするとむせたり食べ物が口からこぼれたりといった、さまざまな嚥下障害を引き起こしやすくなります。


嚥下障害によって食べ物が気管に入り込むと、誤嚥性肺炎によって最悪の場合死に至る場合もあるので、介護者はスプーンに乗せる食材の量を調節したり、一口目は水分から摂らせたりするなどの食事介助が必要です。


 

味覚障害

高齢者は年々味覚や嗅覚が衰えていくため、これまで好んでいた味付けで食事を出しても、醤油や塩、ソースなどを多く加えて味を濃くする傾向にあります。塩分や糖分の過剰摂取は高血圧や糖尿病につながるので、介護者は調味料を手の届かない場所へ置くなどの配慮が必要です。

 

また、盛り付けを工夫したり、使う食材の色をカラフルにしたりして、嗅覚や味覚が衰えても食事を楽しめるようにすることも大切といえます。


 

消化機能の低下

高齢者になると食道の動きが悪くなるため、食べたものが食道に逆流する逆流性食道炎を引き起こしやすくなります。また、高齢になると胃や腸の分泌液が少なくなり、胃もたれや便秘が起きやすくなる点も要注意です。

 

介護者は高齢者が無理なく食事を楽しめるよう、胃に負担のかからないメニューを考えたり、食べ物を少量ずつ運ぶ、口の中が空になってから次の食事を口に入れてあげたりするなどの介助を行いましょう。


 

食欲の低下

高齢になると、身体を動かす機会が減ることによって筋肉量と基礎代謝が下がるため、「お腹が空いた」と感じにくくなります。また、一人暮らしで食事の準備をするのが面倒だったり、パートナーとの死別が精神的ストレスになったりして、食欲が沸かなくなる場合もあります。

 

食欲が低下すると低栄養などのリスクにつながるので、介護者は「カボチャ甘くておいしいですね」「お肉を食べると元気になりますよ」などの声かけをして、高齢者の食欲を刺激することが大切です。


 

認知症の進行

食事には、栄養を補給し健康を維持する目的がありますが、認知症になると、食事をとらなくなったり、食事とは違うものを食べようとしたりして、必要な栄養・カロリーの摂取ができません。


認知症が進んだ高齢者が一人で食事をすると命に関わる可能性もあるため、規則正しく食事ができるような食事介助が必須です。


 

高齢者の食事の特徴を理解しよう

高齢者の食事には、以下のような特徴があります。


 

<高齢者の食事の特徴>

l  柔らかいものが食べやすい

l  濃いめの味付けを好む場合が多い

l  乾燥した食事は好まない場合が多い

l  胃もたれしやすい

l  喉の渇きに気付きにくい

 


食事介助を行う方はこれらの特徴を理解し、高齢者にとって食事時間がストレスにならないよう注意をしましょう。


 

柔らかいものが食べやすい

高齢者は噛む力や飲み込む力が弱まっていたり、入れ歯によって硬い物が食べにくくなっていたりするので、柔らかい食材を好んで食べる特徴があります。


ただし、柔らかい食材ばかりでは栄養が偏ってしまうので、食事を作る際は以下のような工夫をほどこし、食べにくい食材も柔らかくして食べやすくしてあげましょう。


 

<食材を柔らかくする工夫>

l  ご飯をお粥にする

l  おかずをあんかけ風にする

l  脂身が多い肉を選ぶ

l  魚を加熱する

l  野菜を茹でる

l  トマトなどの皮は取り除く

l  繊維が多い食材は繊維を断ち切る

l  硬い食材をすり身にする

 


これらの工夫を食事に取り入れることで、高齢者でもさまざまな食材を楽しむことが可能です。


 

濃いめの味付けを好む場合が多い

高齢になると味覚や嗅覚が衰えてしまうので、次第に濃い味つけを好み始めます。


ただし、好みに従って味付けを濃くすると、高血圧や糖尿病を引き起こす可能性を高めてしまうので、味を濃くしなくても高齢者が美味しいと感じるために、以下の工夫を行いましょう。


 

<味付けの工夫>

l  だしを利かせてうまみ成分をプラスする

l  酢やレモンなどで酸味を加える

l  香味野菜や香辛料で香りをつける

l  適度に運動してもらい食欲を湧かせる

 


ちなみに、舌磨きなどの口腔ケアを積極的に行うと、舌の上にある「味蕾(みらい)」の減少を防ぐことができるため、味覚の低下を防止できます。


 

乾燥した食事は好まない場合が多い

高齢者は唾液の分泌力が減り口の中の水分が少なくなるため、以下のように乾燥した食材や口の中の水分を奪う食材は、飲み込みにくい特徴があります。


 

<高齢者が食べにくい乾燥した食材>

l  パン

l  カステラ

l  もなか

l  ゆで卵

l  いも類

 


これらを食べてもらうときは、水分に浸した状態にするのがおすすめです。ゆで卵は水分の多いだし巻き卵や茶碗蒸しに変更したり、いも類はペーストにしたりあんかけなどにとろみをつけたりなどの工夫をおこなうことで、美味しく安全に食べてもらえますよ。

 

胃もたれしやすい

高齢者の多くは消化機能が低下しているため、消化に時間がかかるだけでなく、胃もたれを起こしやすい特徴があります。そのため、高齢者に食事を与える際は、以下のように胃に優しい食事を選ぶのがおすすめです。


 

<胃に優しい食材>

l  お粥

l  あんかけうどん

l  赤身肉

l  ささみ肉

l  大豆製品

l  スープ

l  茶碗蒸し

l  蒸し野菜

l  ヨーグルト

 


喉の渇きに気付きにくい

高齢者は喉の渇きを感じ取る「口渇中枢(こうかつちゅうすう)」の働きが弱くなるので、喉が渇いていても気付きにくいといった特徴があります。

 

水分を摂るタイミングを高齢者に任せてしまうと水分不足を引き起こしかねないので、時間を決めて水分を小まめに摂らせたり、おかゆやスープなど水分量の多い食事を食べさせたりしましょう。


 

高齢者の食事介助をする手順

高齢者の食事介助には正しい手順と方法があり、これらを守らなければ高齢者を危険におよぼしてしまう可能性もあります。介護職の方でない限り、食事介助は初心者の人がほとんどだと思いますが、以下の流れで行えばプロでなくてもできますので、安心してください。


 

<高齢者の食事介助をする手順>

1.     事前準備を済ませる

2.     正しい姿勢で座ってもらう

3.     エプロンをつける

4.     介助者は高齢者と同じ目線になるように座る

5.     水分補給をしてもらう

6.     水分の多いものから食べ始めてもらう

7.     主食・副食を偏りなく交互に食べてもらう

8.     飲み込んだことを確認する

9.     食後は座った状態でリラックスしてもらう

10.   食べ終わったら摂取量を確認する

11.   食後の口腔ケア・薬の服用をする

 


ここでは、高齢者の食事介助を行う手順について、ひとつずつ解説していきましょう。

 

事前準備を済ませる

食事介助では、すぐに食事をはじめるのではなく、以下の事前準備が必要です。


 

<食事介助の事前準備>

l  体調確認をする

l  排泄を済ませる

l  手を洗う

l  楽しく食事ができる環境をつくる

l  声をかける

l  口内を清潔にする

l  必要に応じて口や舌の体操をする

 


上記6つの準備を事前に済ませておくことで、安心かつ安全に食事を食べてもらえます。


 

体調確認をする

食事を食べる高齢者の体調が悪ければ、食事をうまくとれないかもしれません。食事を提供する前に、気分は優れているか、食欲はあるかを問い、血圧や体温を測って問題がないかを確認しましょう。体調が優れない場合は、食事の内容を検討することも大切です。


 

排泄を済ませる

食事の前には、排泄を済ませるよう誘導しましょう。食事の途中でトイレに行きたくなってしまうと、食事に集中できません。排泄を我慢したり食事を慌てて食べたりする危険性もあるため、排泄は食事の前に済ませておくと安心です。


 

手を洗う

食事前の手洗いは、風邪の予防だけではありません。小さいころからの習慣もあり、高齢者は手を洗うと食事に対して行動を移しやすくなります。

 

ベッドから立ちあがることが難しい場合は、おしぼりやウェットティッシュで手を拭く行為が手洗いの代わりになるので、実践してみましょう。


 

楽しく食事ができる環境をつくる

高齢者ではなくても、暗く散らかった場所では食事をとりたくないですよね。高齢者が気分よく食事できるよう、整頓したりニオイをとったりして、きれいな環境をつくりましょう。

 

また、テレビがついていると落ち着いて食事ができないためおすすめできません。反対に、食事をする部屋が静かすぎるのもよくありませんので、リラックスできる音楽をかけるなど工夫してみましょう。


 

声をかける

今から食事がはじまることを伝えることも、食事介助では重要です。

 

とくに認知症が進んでいる高齢者の場合は、いきなり食事をはじめると混乱させてしまう可能性があります。声かけのタイミングで献立の説明をすることで、食事をする楽しみを助長する効果も期待できます。

 

高齢者の視力や味覚が衰えている場合は、献立が具体的にイメージできるような説明をしましょう。


 

口内を清潔にする

口腔ケアは、食後だけでなく食前も需要です。

 

口の中に菌がいたまま食事をすると、万が一誤嚥した際に、体の中に菌が侵入してしまいます。うがいや歯磨きをすることで、こうしたリスクを最小限に抑えられます。


 

必要に応じて口や舌の体操をする

食事前に口や舌の体操をすると、唾液の分泌が促進され、誤嚥の防止につながります。食事をする人の状態を見て、可能であればやってもらいましょう。


 

正しい姿勢で座ってもらう

高齢者が安全で楽しく食事をするには、正しい姿勢が欠かせません。高齢者の状態に合わせ、正しい姿勢になるよう誘導しましょう。


 

車椅子の場合の正しい姿勢

座る状態を保てる場合は、なるべく車椅子での食事を心がけましょう。

 

車椅子に座って食事をする場合は、床に足をつけて膝を90度に曲げます。軽く前かがみになり、少し顎を引くと、食材が気管に入るリスクを減らせるので安心です。

 

また、介助者は食事をする人の利き手側に座り、なるべく高齢者の目線を合わせましょう。立ったまま食事介助をすると、食事をこぼしやすくなります。


 

片麻痺の場合の正しい姿勢

体の半身が麻痺している人の場合、状態によって調整すべき姿勢は異なります。座る状態が保てるならベッドの上などで座ってもらい、難しい場合はベッドの角度を6080度に傾けて食事介助をおこないましょう。

 

また、介助者は高齢者の麻痺がない側に座り、食事介助をおこないます。高齢者の顎が上がっていると誤嚥のリスクが高まるので、顎が上がらないような顔の高さを意識してください。麻痺のある手をテーブルに載せておくと、体が傾くのを防ぐことが可能です。