高齢者の食事にはどんな特徴がある?よくある悩み、気をつけたいポイントを解説します
高齢になると、加齢の影響から食事がとりにくくなってしまうため、これまでのように食事を楽しめなくなってしまう方も多いです。
しかし、食事は生活のなかで欠かせない衣食住のひとつであり、人生の楽しみでもあります。そのため、高齢者になっても食事を楽しむには、8つのポイントを意識して体調に合った食事形態へ変更したり、食欲が増進するような工夫が必要です。
この記事では、高齢者の食事に関する悩みや、食事がとりにくくなる原因、食事をとるうえで気をつけたいポイント、おすすめの介護食について解説します。高齢者の食事に対して悩みを抱えている人は、ぜひ参考にしてください。
高齢者の食事でよくある悩み
高齢者は加齢にともない体にさまざまな変化が出てくるため、食事をするうえで以下のような悩みをかかえる人が多くなります。
<高齢者の食事でよくある悩み>
l 味を感じにくくなる
l 柔らかいものしか食べられなくなる
l むせてしまう
l 栄養不足になりやすい
l 食べない
l 食べ物を吐いてしまう
このような悩みはなぜ起きてくるのか、原因とともに詳しく解説していきましょう。
味を感じにくくなる
高齢になると、舌の表面にある味蕾(みらい)や口の中の唾液が減少するため、味を感じにくくなります。
味蕾は舌の表面にあるぶつぶつした部分で、味を感じるための大事な器官です。しかし、味蕾は成長とともに減少し、高齢者になると赤ちゃんの頃の半分以下にまで減ってしまうといわれています。また、高齢者になると唾液が減少して口内が乾燥し、味蕾がうまく働かなくなるので、この理由からも高齢者は味を感じにくくなるのです。
味を感じにくくなると、知らず知らずのうちに料理の味付けも濃くなってしまい、糖尿病や高血圧を引き起こしやすくなります。さらに、味の濃い食事は心臓病や脳血管疾患を発症する危険性も高めてしまうため、注意が必要です。
柔らかいものしか食べられなくなる
高齢者は歯がない生活が常態化したり、一人暮らしで人と話す機会が減ってしまったりすると、顎の筋肉が弱まり、柔らかいものしか食べられなくなっていきます。
柔らかいものばかりを食べ続けると顎の筋肉はさらに弱くなっていくため、高齢者はきざみ食やペースト食といった、噛まなくても食べやすい食事がメインとなりやすいです。
むせてしまう
上の項目で解説したとおり、高齢者はさまざまな要因から顎の筋肉が弱くなってしまいます。顎の筋肉が弱まると食べ物を細かく噛み砕けなくなるので、食べたものが喉につかえてむせてしまうのです。
むせることが続くと食事自体が億劫になり、人と食事をとるのも遠慮がちになってしまいます。その結果、食事が楽しくなくなり、食事の回数や量がさらに減ってしまという悪循環につながることもあるため、高齢者の食事は食材をやわらかく煮たりとろみを付けたりして、飲み込みやすい形状にすることが大切です。
栄養不足になりやすい
高齢になると、食事の支度が面倒で、スーパーの弁当や総菜、パンやラーメンなど手軽に食べられるもので食事を終えてしまう人も少なくありません。このような生活が長く続いてしまうと、塩分過多や栄養不足から体調不良を起こしやすくなってしまいます。
嚙む力が低下する高齢者にとって、肉や魚に多く含まれるたんぱく質・カルシウム・ビタミンDや、硬い食材に多く含まれる食物繊維などは不足しやすい栄養素です。そのため、高齢者の食事は不足しやすい栄養素を意識的に摂取することが大切といえます。
【高齢者が不足しやすい栄養素】
栄養素 |
多く含まれる食材 |
たんぱく質 |
肉/魚/卵/大豆製品/乳製品 |
カルシウム |
乳製品/小魚/大豆製品/海藻類 |
ビタミンD |
イワシ/サンマ/サケ/ブリ/カレイ |
食物繊維 |
切り干し大根/ごぼう/しいたけ/ひじき/アーモンド |
食べない
高齢者になると味覚だけでなく嗅覚や視力も衰えてくるため、食べ物を見ても「おいしそう!」「良いにおい!」といった感情がわかず、食事を摂らなくなってしまう場合があります。また、入れ歯や口腔衛生の問題でうまく食材を噛み砕けない、一人で食事をするのが寂しいといった理由から食事を食べなくなる人も多いです。
この場合は、香り付けや盛り付けを工夫して食欲をわかせたり、地域の人などと食事をする機会を増やしたりして、食事を食べたいと思わせる雰囲気作りをすることを心がけましょう。
食べ物を吐いてしまう
高齢者は、嚙む力だけでなく飲み込む力も低下しやすいです。飲み込む力が低下すると食べ物が気管に入りやすくなり、むせたり吐いたりしてしまいます。
そのため、高齢者が食事を摂るときは、食べ物が器官に入らないように以下の内容を意識しましょう。
<テーブルで食べる場合>
l 足が床に付く高さの背もたれ椅子に深く座る
l テーブルは胸の高さに調整する
l 体を少し前かがみする
l 顎を軽く引く
l 食後2時間程度は座った状態を保つ
<ベッドで食べる場合>
l 背中の角度が45度~60度になるよう調整する
l 体が前かがみになるよう、頭にクッションなどを置く
l 足が前ずれないよう、クッションなどを置いて固定する
l 食後2時間程度は起き上がった状態を保つ
上の点に注意をしても頻繁に食べ物を吐いてしまう場合は、嚥下障害の可能性も考えられます。嚥下障害を放置すると誤嚥性肺炎を引き起こすこともあるので、早急な対策が必要です。
高齢者の食事で気をつけたい8つのポイント
高齢者の食事における悩みは、以下8つのポイントに気を付けると改善できる可能性があります。
<高齢者の食事で気を付けたい8つのポイント>
1. 食べやすい食品を選ぶ
2. 嚙みやすく・飲み込みやすく調理する
3. 色合い・彩りを工夫する
4. 食事に集中できる環境をつくる
5. 正しい姿勢で食事をしてもらう
6. できるだけ孤食を避ける
7. 無理に食べさせようとしない
8. 食後は口内ケアを欠かさない
ひとつずつ解説していきましょう。
①食べやすい食品を選ぶ
高齢者でも食事を楽しめるように、まずは食材選びから工夫してみましょう。
高齢者が食べやすい食品を選ぶことで、食べ物を口にする喜びを感じやすくなり、食事の時間も楽しくなります。ただし、栄養バランスが偏らないように、食材の選び方を工夫することが大切です。
高齢者が食べやすい食品
高齢者が比較的食べやすい食品は、以下のようなやわらかい形状の食品です。嚙みやすく飲み込みやすいものが向いています。
主食 |
l おかゆ l カレーライス |
おかず |
l とろろ(すりおろし) l 煮こごり l 茶碗蒸し l 卵豆腐 l つみれ l ハンバーグ |
汁物 |
l ポタージュ l シチュー |
デザート |
l ヨーグルト l アイスクリーム l ゼリー |
たんぱく質やビタミンDを多く含む肉や魚は、ミンチの状態で食べるのがおすすめです。ヨーグルトなどの乳製品も積極的にとることで、不足しがちなカルシウムも補えます。
高齢者が食べにくい食品
高齢者が食べにくい食品には、以下のものが挙げられます。
主食 |
l パン l ラーメン l スパゲッティ l チャーハン l もち |
おかず |
l はんぺん l 酢の物 l 厚みのある肉 l 薄切り肉 l 焼き魚 l のり |
汁物 |
l 味噌汁 |
野菜 |
l きゅうり l レタス l ごぼう l たけのこ |
くだもの |
l パイナップル l りんご l 梨 l 柿 l 柑橘類 |
きゅうり・りんごのように硬く嚙みにくいものや、ごぼう・パイナップルといった繊維が残るものは、高齢者も食べにくさを感じます。また、酸味が強い・弾力がある・パラパラとまとまりがない料理などは、むせたり飲み込みにくかったりするため、おすすめできません。
②嚙みやすく・飲み込みやすく調理する
高齢者は加齢により顎の筋肉が弱くなったり、飲み込む力が弱くなったりするので、食事は食べやすい食材を選ぶだけでなく、噛みやすく飲み込みやすくする工夫も必要です。病院や老人ホームなどでも、高齢者への食事は流動食やペースト食、ミキサー食やソフト食など食べやすい形状に調理していますので、家庭でも参考にしてみましょう。
嚙みやすくする工夫の仕方
高齢者が噛みにくい食材の中には、栄養素の観点から積極的に摂ったほうが良い食材もあります。そのような食べにくい食品を嚙みやすくするには、以下の工夫がおすすめです。
l 硬い食材は隠し包丁を入れたり細かく切ったりする
l 厚みのある肉は一口サイズに細かく切る
l 硬い野菜はやわらかくなるまで茹でる
l 繊維がある食品は繊維を断ち切るように垂直に切る
l 野菜を炒めるときは茹でてから炒める
噛みにくい食材を食べやすくするためには、少ない力でも口の中でまとめられるような工夫が必要です。高齢者が食べにくい厚みのある肉や繊維がある野菜なども、下ごしらえを工夫すると食べやすくなります。
飲み込みやすくする工夫の仕方
飲み込む力が弱くなってしまった高齢者でも無理なく食事を楽しめるよう、以下のような工夫をして食材を飲みやすくすることも大切です。
l 食材が煮崩れするぐらいまで煮込む
l 片栗粉やとろみ剤などで料理にとろみをつける
l 肉類は片栗粉をまぶして加熱する
l 野菜の皮をむく
l いも類は牛乳やだし汁などの水分を加えて口当たりを良くする
歯茎でも潰せるくらいのやわらかさがあると、高齢者でも飲み込みやすくなります。食べる人の嚥下力に合わせて、やわらかさも調整しましょう。とろみのある料理は、口当たりやのどごしが良くなり、飲み込みやすくなります。
③色合い・彩りを工夫する
人間の五感は80%以上を視覚が占めるほど、私たちは目から得る情報を頼りに生活しています。どんなに美味しい料理でも、見た目が美しくなければ食欲は刺激されません。視覚によって食欲が湧くような、色合いや彩りを意識しましょう。
一般的に、食欲を刺激する色は、赤やオレンジなどの暖色系といわれています。彩りを加えるために、にんじんやトマトなどを添えたり、ランチョンマットやテーブルクロスを暖色にしたりするだけでも、食欲を刺激する効果が期待できるでしょう。
④食事に集中できる環境をつくる
食事中にテレビがついていると、ついついテレビが気になり、食事に集中できなくなります。極力テレビは消して、食べることに意識が向くような環境づくりをおこなうのが大切です。
ただし、静かすぎると、かえって緊張や孤独を感じてしまうかもしれません。一人で食事をとる場合は、ゆったりとした音楽をかけるなど、リラックスできる環境をつくりましょう。
⑤正しい姿勢で食事をしてもらう
姿勢が悪い状態で食事をとると、食べ物が気管に入るリスクも高まります。また、腹部が圧迫されるような姿勢は、食事も食べにくくなってしまうでしょう。
安全で楽しい食事には、正しい姿勢が必要不可欠なのです。
正しい食事の姿勢については、「食べ物を吐いてしまう」の項目にて、テーブルで食べる場合とベッドで食べる場合に分けて解説していますので、参考にしてください。
⑥できるだけ孤食を避ける
高齢者のなかには一人暮らしをしている方も多く、一人でとる食事がつまらないと感じている人も少なくありません。一人で食事をとると、献立が適当になったり、回数や量が減ったりする原因になりやすいです。できるだけ孤食を避け、誰かと一緒に食事をとるように心がけましょう。
たまには外食をするなど、場所を変えてみるのもおすすめです。周りに人がいるため、にぎやかな環境のなかで楽しく食事をとれます。
⑦無理に食べさせようとしない
高齢者に食事の介助をする場合、食事の量や回数が少なくなったからといって、無理に食べさせるのは避けましょう。無理に食べさせるとストレスを感じてしまい、食事の時間がもっと億劫になってしまいます。
人によって1回で食べられる量は限られているので、食事量が減った場合は少しずつ食べ物を口に入れ、様子を見る必要があります。急かさないよう、周りの人が食べるペースを合わせてあげることも大切です。
⑧食後は口内ケアを欠かさない
口のなかに食べ物が残っていると、誤って気管に入り、誤嚥性肺炎や窒息を引き起こす恐れもあります。また、口腔ケアを怠ると歯肉炎や歯周病により、口の中が不衛生になりやすいので、食後はすぐに歯磨きやうがいをし、口のなかを清潔に保ちましょう。
高齢者に必要な食事量は?
65歳以上の高齢者の場合、1日に必要なカロリーが以下の数値に達していない人は、食事のとり方に工夫が必要です。
【高齢者に必要な1日の接種カロリー】
|
身体活動レベル |
1日に必要な摂取カロリー |
男性 (65〜74歳) |
Ⅰ |
2,050 kcal |
Ⅱ |
2,400 kcal |
|
Ⅲ |
2,750 kcal |
|
男性 (75歳以上) |
Ⅰ |
1,800 kcal |
Ⅱ |
2,100 kcal |
|
Ⅲ |
- |
|
女性 (65〜74歳) |
Ⅰ |
1,550 kcal |
Ⅱ |
1,850 kcal |
|
Ⅲ |
2,100 kcal |
|
女性 (75歳以上) |
Ⅰ |
1,400 kcal |
Ⅱ |
1,650 kcal |
|
Ⅲ |
- |
1日に必要な摂取カロリーは、年齢・性別に加え、活動量によっても異なります。身体活動レベルの数字は、以下を参考にしてください。
<身体活動レベルの目安>
l Ⅰ:1日のうちほとんど座っていて、あまり活動しない(75歳以上の高齢者は、自宅にいてほとんど外出しない人)
l Ⅱ:座っていることが多いが、買い物・家事・軽いスポーツなどで身体を動かしている(75歳以上の高齢者は、自立している人)
l Ⅲ:移動や立っていることが多く、活発に運動している
また、人は1日のカロリー摂取量を目標に食事をするのではなく、カロリー内で各栄養素をバランスよく接種することも大切です。65歳以上の高齢者の場合、以下の栄養素が1日の食事で必要といわれています。
【高齢者に必要な栄養素】
栄養素 |
男性 |
女性 |
|||
65〜74歳 |
75歳以上 |
65〜74歳 |
75歳以上 |
||
たんぱく質 |
推奨量(g) |
60 |
60 |
50 |
50 |
脂質 |
目標量(%) |
20〜30 |
20〜30 |
15〜20 |
20〜30 |
炭水化物 |
目標量(%) |
50〜65 |
50〜65 |
50〜65 |
50〜65 |
食物繊維 |
目標量(g) |
20以上 |
20以上 |
17以上 |
17以上 |
ビタミンA |
推奨量(μgRAE) |
850 |
800 |
700 |
650 |
ビタミンD |
目安量(μg) |
8.5 |
8.5 |
8.5 |
8.5 |
ビタミンE |
目安量(g) |
7.0 |
6.5 |
6.5 |
6.5 |
ビタミンK |
目安量(μg) |
150 |
150 |
150 |
150 |
ビタミンB1 |
推奨量(mg) |
1.3 |
1.2 |
1.1 |
0.9 |
ビタミンB2 |
推奨量(mg) |
1.5 |
1.3 |
1.2 |
1.0 |
ビタミンB6 |
推奨量(mg) |
1.4 |
1.4 |
1.1 |
1.1 |
ビタミンB12 |
推奨量(mg) |
2.4 |
2.4 |
2.4 |
2.4 |
ビタミンC |
推奨量(mg) |
100 |
100 |
100 |
100 |
カリウム |
目安量(mg) |
2,500 |
2,500 |
2,000 |
2,000 |
カルシウム |
推奨量(mg) |
750 |
700 |
650 |
600 |
マグネシウム |
推奨量(mg) |
350 |
320 |
280 |
260 |
リン |
目安量(mg) |
1,000 |
1,000 |
800 |
800 |
鉄 |
推奨量(mg) |
7.5 |
7.0 |
6.0 |
6.0 |
農林水産省が公表している「食事バランスガイド」を参考にすると、1日の摂取カロリーが2,000kcla前後の高齢男女の場合、1日の食事は以下のような内容が理想とされています。
<朝食>
l おにぎり1個
l 具だくさん味噌汁
l 目玉焼き
l チーズ1かけ
<昼食>
l ごはん(大盛り)
l 野菜炒め
l 納豆
<間食>
l ヨーグルト
l みかん1個
<夕食>
l ごはん(大盛り)
l ひじきの煮物
l ほうれん草のおひたし
l 具だくさん味噌汁
l 焼き魚
毎日どのような食事を摂れば良いのかわからない人は、参考にしてみてください。