高齢者が陥りがちな低栄養とはどんな症状?原因や予防方法を詳しく解説
超高齢社会の近年では、特に75歳以上の後期高齢者は低栄養に陥りやすいと言われています。低栄養状態になるとさまざまな症状が発生し、高齢者にとっては命の危険にもつながります。高齢者の低栄養を防ぐには、食事への工夫が必要です。
この記事では、低栄養の概要や症状、原因や予防法について解説していきます。ご自身や家族の低栄養に心当たりある人は、ぜひ参考にしてください。
高齢者が陥りがちな「低栄養」とは?
厚生労働省が定義する低栄養とは、健康的に生きるために必要な栄養素が十分にとれていない状態のことです。
高齢者は歳を取ると顎の筋肉が弱くなるだけでなく、味覚や嗅覚も鈍くなるため、食べることが億劫になってしまいます。食べる意欲がわかなくなると、食事回数の低下→筋肉量の低下→基礎代謝の低下→活動量の低下→低栄養→食事回数の低下…とループしてしまうので、低栄養の予防は高齢者の健康維持に欠かせません。
低栄養に陥る高齢者の割合
厚生労働省が発表した「平成28年国民健康・栄養調査報告」によると、低栄養に陥る高齢者の割合は、男性が70歳代で23%、80歳代で32%、女性は70歳代で37%、80歳代で44%でした。
このことから、高齢者の低栄養は年齢が高くなるにつれて増えていくことがわかります。
|
年齢 |
低栄養の割合 |
男性 |
60歳代 |
9.5% |
70歳代 |
23.1% |
|
80歳代 |
32.7% |
|
女性 |
60歳代 |
21.3% |
70歳代 |
37.3% |
|
80歳代 |
44.2% |
65歳以上の高齢者は、BMIの値が20以下になると低栄養状態と判断されます。BMIとは肥満度を表す指標のことで、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」の計算式で算出できますから、一度ご自身のBMIを確認してみると良いでしょう。
低栄養でみられる症状
高齢者が低栄養になると、以下の症状が現れます。
<高齢者が低栄養になると見られる症状>
l 歩くスピードが遅くなったり、歩幅が狭くなったりする
l 転びやすくなる
l 元気がなくなる
l 傷や風邪が治りにくくなる
l 下半身や腹部がむくみやすくなる
l 体重が減る
l 食事を残すことが多くなる
低栄養になると筋肉量が低下するため、歩くスピードが遅くなったり、歩幅が狭くなって転びやすくなったりします。すると出かけるのが億劫になって家から出なくなり、お腹が空かなくなっていきます。その結果、食事量が低下し、低栄養が加速してしまうのです。
この症状は加齢特有のものと思われがちですが、実は低栄養が原因となっているパターンもあるので、1つでも当てはまる場合は普段の食生活を見直してみましょう。
低栄養と脱水症状が同時に起こることも
低栄養が起きると、同時に脱水症状を起こすこともあります。1日に必要な水分量は約1.7〜2.4Lであり、水分の半分程度は食べ物から摂取するのが一般的です。しかし、低栄養の原因となる食事量が減少することで、毎日の水分摂取量が減ってしまいます。
低栄養と脱水症状が同時に起こる場合は、以下の症状がみられます。
<高齢者が低栄養と脱水症状を同時に起こした場合の症状>
l 口の中や舌が乾く
l 唾液がべたつく
l 食欲がなくなる
l よろけやすくなる
l 元気がなくなる
l 皮膚の弾力がなくなる
これらの症状が現れたら、普段の食生活はもちろん、水分の摂取量も見直してみましょう。
高齢の低栄養状態が長引くとどうなる?
高齢者の低栄養状態が長引くと、健康な体を維持できず、以下のように重大な症状を引き起こす可能性があります。
<慢性的な低栄養状態が引き起こす重大な症状>
l 低タンパク血症
l 誤嚥性肺炎
l 骨粗しょう症
l 身体機能の低下
なぜこのような症状が起きてしまうのか、原因と共に解説していきましょう。
低タンパク血症
低タンパク血症とは、むくみや腹水といった症状を引き起こす病気です。低タンパク血症は免疫力の低下も引き起こすので、肺炎などの感染症にもかかりやすくなります。
慢性的な低栄養状態になると、十分なタンパク質量が食事から摂取できなくなるため、このような症状を引き起こす可能性があるのです。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液などが細菌と一緒に気道へ流れてしまうことで発症する肺炎です。
低栄養の状態が慢性化すると、免疫力が低下するだけでなく、異物を咳で吐き出す力が弱くなってしまうので、このような症状を引き起こす可能性があります。
高齢者は、低栄養でなくても飲み込む力の低下から誤嚥性肺炎を起こしやくなるため、十分注意が必要です。
骨粗しょう症
骨粗しょう症とは、骨の強度が低下することにより骨折しやすくなる状態のことです。
低栄養が慢性化すると、筋肉量の低下から身体を動かす機会も減ってしまうので、骨の新陳代謝が弱まり、骨も折れやすくなってしまいます。また、低栄養の影響で骨を作り出すカルシウムも常に不足しているため、骨折後の回復も遅くなりがちです。
身体機能の低下
慢性的な低栄養は、「フレイル」「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」といった身体機能の低下を引き起こします。
l フレイル:「疲れやすい」「歩きにくい」など、健康な体を維持する力やストレスに対抗する力が低下した状態
l サルコペニア:筋肉量や筋力の低下により、体全体の機能が低下した状態
l ロコモティブシンドローム(ロコモ):筋肉や骨などに障害が起き、変形性膝関節症や骨粗しょう症などで日常生活に支障がでる状態
フレイルは介護が必要になる前段階、ロコモティブシンドロームは要介護や寝たきりになるリスクが高まっている状態ですので、注意が必要です。
高齢者が低栄養となる原因
高齢者が低栄養になる原因には、以下の6つが考えられています。
<高齢者が低栄養になる原因>
l 噛む力・飲み込む力の低下
l 消化機能の低下
l 味覚の低下
l 粗食志向
l 孤立・経済的困窮
l 精神的ストレス
それぞれ解説していきましょう。
噛む力・飲み込む力の低下
高齢になると顎や喉の筋力が弱まり、噛む力や飲み込む力が低下します。すると、好きな食材が食べられなかったり、やわらかく飲み込みやすいものばかり食べるようになったりするので、満足な食事ができず低栄養につながるのです。
消化機能の低下
加齢が進むと内臓機能が弱まり、下痢や便秘など消化吸収機能が低下します。食べると下痢や便秘が起こってしまうため、自然と食から離れてしまう高齢者も少なくありません。
十分に食事をとっていても、消化吸収機能が低下すると、若い人の同じ量の栄養素を吸収できなくなります。これもまた、低栄養になる原因の一つです。
味覚の低下
高齢者になると味覚が低下し、食事を楽しむことができず食事回数が低下しやすいことから低栄養につながってしまいます。
人間は、舌にある味蕾(みらい)と呼ばれるぶつぶつした表面で味を感知します。しかし、味蕾は加齢とともに減少し、高齢者になると赤ちゃんの頃の半分以下にまで減少してしまうので、味を感じにくくなるのです。
また、高齢者は唾液の分泌量も減るため、口の中が乾燥して味蕾がうまく働かなくなることも味覚が低下する原因のひとつとされています。
低栄養になると味蕾の働きがさらに弱まり、味覚低下に拍車をかけるという悪循環を引き起こす可能性もあるので、高齢者の食事は味の付け方や香りの付け方に工夫が必要です。
粗食志向
粗食志向とは、肥満を気にするあまりカロリーが少ない食事を積極的にとることです。
確かに粗食は健康に良いこともありますが、高齢者が粗食志向になると、1日に必要なたんぱく質やカロリーを摂取することができず、低栄養になるリスクがあります。カロリーのとりすぎも健康に良くありませんが、極端な摂生もまた健康に悪影響を及ぼします。
低栄養にならないためにも1日に必要な摂取カロリーを理解し、それを目安に食事量を調整しましょう。
孤立・経済的困窮
高齢者の中には一人で暮らしている人も多く、孤独感から食欲が低下することが少なくありません。一人暮らしの場合は、自分のために食事を準備するのが億劫だと感じる人もいます。そのため、社会的に孤立した高齢者は低栄養になりがちです。
また、内閣府の調査によると、経済において暮らしに心配を抱えている高齢者はおよそ20〜30%に及びます。経済面を気にするあまり十分な食材を買えず、低栄養につながるケースもあると予想できます。
精神的ストレス
精神的にストレスを感じると、食欲が減少し低栄養になることもあります。一時的な食欲の減少は栄養面に大きな影響を与えませんが、強い精神ストレスだと長期間続くことも少なくありません。
高齢者は配偶者や家族などの死別で精神的に大きなストレスを抱える機会も増加するため、高齢者は低栄養を防ぐためにも心のケアが重要です。
高齢者の低栄養を予防する方法
高齢者が陥りやすい低栄養は、以下6つの方法で予防できます。
<高齢者の低栄養を予防する方法>
l BMIを計算する習慣をつける
l 栄養バランスのとれた食事をとる
l 口内を清潔に保つ
l 食事前に口や舌の運動をする
l 栄養補助食品やサプリメントを活用する
l 適度な運動をする
ご自身やご家族に低栄養の疑いがある場合は、これらの対策を試してみましょう。
BMIを計算する習慣をつける
高齢者の低栄養は、BMIの数値で発見できるケースが多いです。
「低栄養に陥る高齢者の割合」の項目でも解説したとおり、65歳以上の高齢者は、BMIの値が20以下になると低栄養状態と判断されます。BMIは以下の計算式で算出できるので、高齢者は血圧などを測る習慣に加えてBMIを計算する習慣も付けましょう。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
BMIが20以下になったときは、食生活を見直してください。
栄養バランスのとれた食事をとる
低栄養の予防に欠かせないことは、栄養バランスのとれた食事を摂取することです。たくさん量を食べたとしても、栄養バランスが偏っていては低栄養を防ぐことができません。
食事を摂る際は、筋肉量を維持するためのタンパク質、身体を動かすエネルギーとなる糖質、体調管理に必要なビタミンやミネラル、カルシウムなどをバランス良く摂取できるメニューを考えることが大切です。
タンパク質は肉や魚、糖質は白米や玄米、ビタミンやミネラルは温野菜やサラダ、カルシウムは牛乳やチーズなどから摂取できます。1回に多くの食事を食べられない場合は、1回の食事量を減らす代わりに食事回数を1日4回や5回に分けたり、おやつをプラスして足りない栄養素を摂ったりするなどの工夫がおすすめです。
食事の準備が難しい場合は、栄養バランスに配慮された弁当を配達してもらえる宅食サービスの利用も検討してみましょう。
高齢者の食事摂取基準
厚生労働省が算出している高齢者に必要な食事摂取基準は、以下のとおりです。
【高齢者に必要なエネルギー量】
|
身体活動レベル |
1日の必須エネルギー |
男性 (65〜74歳) |
Ⅰ |
2,050 kcal |
Ⅱ |
2,400 kcal |
|
Ⅲ |
2,750 kcal |
|
男性 (75歳以上) |
Ⅰ |
1,800 kcal |
Ⅱ |
2,100 kcal |
|
Ⅲ |
- |
|
女性 (65〜74歳) |
Ⅰ |
1,550 kcal |
Ⅱ |
1,850 kcal |
|
Ⅲ |
2,100 kcal |
|
女性 (75歳以上) |
Ⅰ |
1,400 kcal |
Ⅱ |
1,650 kcal |
|
Ⅲ |
- |
人間に必要なエネルギー量は、年齢や性別だけでなく、活動量によっても異なります。活動レベルの数字は、以下を参考にしてください。
<活動レベル>
l Ⅰ:1日のうちほとんど座っていて、あまり活動しない(75歳以上の高齢者は自宅にいてほとんど外出しない人が含まれる)
l Ⅱ:座っていることが多いが、買い物・家事・軽いスポーツなどで体を動かしている(75歳以上の高齢者は、自立している)
l Ⅲ:移動や立っていることが多く、活発に運動している
上の摂取カロリーをもとにすると、高齢男性と女性は、各年齢で1日に以下の栄養素を確保する必要があります。
【高齢者に必要な食事摂取基準量】
栄養素 |
男性 |
女性 |
|||
65〜74歳 |
75歳以上 |
65〜74歳 |
75歳以上 |
||
たんぱく質 |
推奨量(g) |
60 |
60 |
50 |
50 |
脂質 |
目標量(%) |
20〜30 |
20〜30 |
15〜20 |
20〜30 |
炭水化物 |
目標量(%) |
50〜65 |
50〜65 |
50〜65 |
50〜65 |
食物繊維 |
目標量(g) |
20以上 |
20以上 |
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